2022年 ミャンマーコーヒーに異変あり


これまで経験したことのない事態が

こんにちは。

AUNG COFFEEの奥富です。

ミャンマーのコーヒー豆は11月~3月にかけて収穫され、ちょうど今頃は輸出プロセスの真っただ中です。

昨年は世界的にコーヒー豆の不作(ブラジルの霜害)や、世界情勢/コロナによる輸送費の高騰など、あまりコーヒー産業にとってうれしくない事象が続きました。

このことにより、各地域でコーヒー豆の争奪戦が起こったり、大幅な価格の上昇も発生しています。ミャンマーのスペシャルティコーヒー産業はどのような影響をうけているでしょうか。

当店は、現地の農家やコミュニティと直接コミュニケーションをとりながらダイレクトトレードでコーヒー豆を輸入しています。

今回、7月からミャンマーへの入国が緩和されたことにより、現地のコーヒー協会やコミュニティ、農家を訪問することができました。

これまでのコミュニケーションの中で理解した2022年にミャンマーのコーヒー産業で起こった大きな事象についてレポートします。

外国からバイヤーがやってきた

As you heard, this was a hard year for all the coffee producers, for so many reasons.
we only got 2/3 of the coffee we received last year. That hurt us a lot. It seemed the middle men were coming out of nowhere trying to buy all the coffee, not concerned with quality.

(聞いているかもしれないけど、今年はいろんな理由でコーヒー生産者にとって厳しい年になったわ。私たちは去年と比べて2/3の量のコーヒー豆しか入手できなかったの。あるところからコーヒー豆のバイヤーが現れて品質の良し悪しに関わらず農家からコーヒー豆を買い漁っていったの。)

Suddenly new processor come out and sourcing coffee cherries in hopong without choosing coffee.
Everything they buy give the high price of cheeries.
They produce for 〇〇 people who would like to buy Myanmar coffee.

(急にバイヤーがきてコーヒーチェリーを品質にこだわらずかたっぱしから買い漁っていったんだ。そのせいでコーヒーチェリーの価格が高騰してしまった。彼らは〇〇の国の人向けに買っていくんだ。)

Actually, we did not get as much coffee from our communities as we expected for this season.
So, we don’t have enough volume to supply to all our customers.

(今年は予測していた量のコーヒーチェリーが入手できなかったの。私たちのお客さんに販売する十分な量のコーヒーがなくなってしまったわ)

 

(バイヤーが買っていく品質の良くない豆)

これらは、生産者とのやりとりの中で送られてきたメッセージです。 ミャンマーのスペシャルティコーヒーは、欧米のUSAID、WINROCKのサポートにより飛躍的にその品質向上と、持続可能な体制が確立されてきました。

サポートは生産だけではなく、農家のコミュニティ内でそのサプライチェーンが完結できるようにそのノウハウが引き継がれており、サポートプロジェクト完了後も脈々と現地の農家コミュニティに引き継がれ、この2、3年は様々な困難がありながらもうまく歯車が回り始めてきた段階でした。

各農家のコミュニティは、それぞれコミュニティメンバーの農家からコーヒーチェリーを買い取ります。 農家はコーヒーチェリーをどこに売ってもいいわけですが、高品質で価格の高いコーヒー豆を生産できるようにコミュニティから指導と教育のサポートを受け一体となって取り組みます。ある意味コミュニティ内の信頼関係で成り立っているわけです。 今回、この過程の中で、新たに現れた近隣国のバイヤーによって”品質はどうでもいいからこれだけの量のコーヒー豆を買うよ”と横ヤリが入ったわけです。

これは世界的なコーヒー豆の不足に加えて、隣国でのカフェブーム(豆品質<インスタ映え)により自国のコーヒー豆が不足したことが要因のようです。もともとブラックコーヒーとして風味を楽しむ習慣は少ない地域ですので、カフェで提供するコーヒードリンクの原材料としてのコーヒー豆がほしいというニーズが高まったと思われます。 日本の私のところまで、ミャンマーのコーヒー農家を紹介してくれないか?とメッセージが送られてくるほどでした。

とにかく、これまで10年以上かけてNGOのサポートと足並みをそろえて、世界レベルのコーヒー豆を自分たちの手で作ろう!と取り組んできたコミュニティは怒っています。

しかしながらこのように、品質があがって評判の良くなったものを争奪する動きというは経済活動の中ではよくある話とも言えます。ミャンマーのスペシャルティコーヒーもその土台に上がってきたということになるのでしょう。

このような問題について現地の方に意見をヒアリングしました。

1、ミャンマースペシャルティコーヒーの品質の評判が低下する(ブランド力への影響)

2、バイヤーに販売してしまった農家の行く末

3、今後も起こりうる事象への対策

 

1、ミャンマースペシャルティコーヒーの品質の評判が低下する(ブランド力への影響)

とくにユワンガンを中心とするスペシャルティコーヒーの育成に力を入れいたコミュニティは、バイヤーが買い漁っていった品質の良くないコーヒー豆をユワンガン産と称して販売されることに深く憂慮しています。

10年かけて作ってきた信頼を一瞬のうちにこわされるのでは、怒るのも当然ですよね。

コミュニティは農家に対して、いかにブランディングが大切なのかをわかってもらい、このような品質の低いコーヒー豆を販売することが全体に大きな影響を与えることを理解してもらいたいと話しています。

2、バイヤーに販売してしまった農家の行く末

とあるコミュニティの人は、今回のように突然現れたバイヤーに横流ししてしまった農家からはもう豆を買わないんだ、と話していました。 それは単に感情的になって言っているわけではありません。 この手のバイヤーは豆が欲しい時だけに現れ、毎年定期的な取引をするわけではないのです。

品質の悪いコーヒー豆を育て、安かろう悪かろうでしか販売できなくなってしまった農家はコーヒーの栽培をやめることになるでしょう。

代わりに安定的に向上心をもって品質のよいコーヒーを栽培し、コミュニティとの取引が安定している農家は、その品質の良いコーヒー豆の生産を拡大していくことになります。 こういった視野をもってミャンマーのスペシャルティコーヒーの持続性に取り組む考えを持った上での意見なのかもしれません。

もちろん、コーヒーには様々な品質レイヤーごとに販売チャネルがあります。(スペシャルティコーヒー以外が良くないというわけではありません)しかし、こういった地域において農家が少量栽培したコマーシャルクオリティに関しては、買取側も生産側もメリットを見出しにくく、持続的な栽培にはつながっていかないのだと思います。

3、今後も起こりうる事象への対策

10年以上前からNGOのサポートにより高品質なスペシャルティコーヒーの生産に取り組んできたコミュニティには強い絆があります。

農家の方々は日常的にコーヒーを淹れて飲んだりしませんが、その栽培には職人的プライドがあり、意欲に溢れています。このように絆の強いコミュニティでは決して安かろう悪かろうの豆の生産に加わりません。そういったいい意味での村社会が形成されているのもミャンマーの魅力の一つです。

 

 

持続可能な取り組みと次世代の育成

また、持続可能なスペシャルティコーヒーの生産に取り組むプロジェクトもあります。

今回、ユワンガンではティハ氏の手がけるプロジェクトのThe Ladyの拠点を訪ねました。
ティハ氏は当店でおなじみのモーゴウコーヒーのオーナーでミャンマーナショナルカッピングジャッジ(審査員)の一人でもあります。

ユワンガンのThe Ladyプロジェクトはメンバーの99%が女性で、彼はマネジメントとそのクオリティコントロールとしても活動しています。

The Ladyプロジェクトでは農家に生豆の売り上げの20%を還元し、プロジェクトではその精製プロセスにおいて品質の向上に取り組みます。つまり良い豆を作って高く売れるとその分、農家は多くの収入(2度の収入)が得られます。(1度目はコーヒーチェリーの販売収入)。

ティハ氏は1度の収穫から150カップ以上のカッピングを繰り返し、そのシーズン中にに最適なプロセスと品質精度をコントロールしていきます。

このように、プロデュース側と農家側が一体となってスペシャルティコーヒーの生産を盛り上げていく体制が既に展開しているのです。

最近ではティハ氏のような有識者が中心となって若手の人材育成(コーヒークラス)が盛んになており、プロデュースに関わる人材育成も進んでいるようです。

私たち、外国の消費者が想像するよりずっと先を行って、持続可能な取組みが現地で展開しています。

今回は、スペシャルティコーヒー領域のレイヤーでの視点からのトピックスであり、もちろん大多数を占めるコマーシャルコーヒー・ローグレードコーヒー領域やこのように組織的な体制が整っていない農村部ではまた別の事情があるのかもしれません。

 

今回の訪問で、このようにスペシャルティコーヒーの生産に関わる若手の人材育成が進んでいることにより、より素晴らしいミャンマースペシャルティコーヒーとの出会いがこの先に待っていることを確信できたことが大きな収穫でした。

ただ、今年は上記の通りミャンマーのコーヒー生産者にとって大きな打撃を与える事象がありました。

ミャンマーコーヒーファンのみなさまにおかれましては、特に第3国を通してミャンマー産と称して入手されるコーヒー豆に関しては、上記の事情をご留意いただければと思います。

今回のレポートは、あくまで私個人の私見ですので、そういうことじゃないよ!という意見もあるかと思いますので、あくまでつぶやきだと思ってお読みいただければと思います。

*訪問の様子・写真はInstagramにアップしていますので、よろしければ是非そちらもご覧ください(^^)

https://www.instagram.com/aung_coffee/


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